大判例

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京都地方裁判所 昭和40年(ワ)339号 判決 1971年10月20日

原告

高野善明

外一名

代理人

柏原武夫

外一名

被告

洛南電気工業株式会社

浜本義人

外二名

右四名代理人

谷口義弘

外一名

被告

日本国有鉄道

代表者

磯崎叡

代理人

平岡武夫

外六名

主文

一、被告洛南電気工業株式会社、同浜本義人および同内田勇は、各自原告ら夫々に対し、金一、八五六、四二〇円およびこれらに対する昭和三九年七月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らのその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は、原告らと被告洛南電気工業株式会社、同浜本義人および同内田勇との間においては原告らに生じた費用の二分の一を被告ら三名の連帯負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告美谷惣司および被告日本国有鉄道との間においては全部原告らの負担とする。

四、この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一(当事者の地位)

被告洛南電気は、送電工事等を業とするものであるが、昭和三九年六月一五日に、被告国鉄から京都電力区管内腐朽電柱建替工事を請負つたことは当事者間に争いなく、同社はこれを訴外北田電業社に下請けさせたこと、被告浜本義人、同内田勇および同美谷惣司はいずれも北田電業社の被用者であり、右工事に従事していたことは、原告らと国鉄を除くその余の被告らとの間において争いがなく、被告国鉄は右事実を明らかに争わないから自白したものとみなす。

二(事故の発生)

<証拠>によれば、

(1)  被告浜本、同内田および同美谷の三名は、昭和三九年七月二〇日、前記工事の一環である、国鉄山陰線嵯峨・保津峡間亀山トンネル西出口電柱一基の建替工事に従事していたが、古い電柱から新しい電柱に電線を移す際、電線がはずれて大堰川に落ち、これを引き上げるため、大堰川を越えて対岸までロープを渡すことが必要となつた。

(2)  そこで前記作業現場より、すこし上流の京都市右京区嵐山元録山町一一ノ二嵐峡館西端から約五〇メートル上流の大堰川北側(以下本件事故現場という)が川幅も三〇メートルぐらいで狭くなつているので、そこから、泳いでロープを対岸に渡そうと考え、泳ぎの得意な被告美谷がロープを持つて川を泳ぎ渡ろうと試みたが、数日来の雨で大堰川は増水(水位約五メートル、これは平常水位の約二倍であつた)し、流れも急になつていたため、川の中ほどまで泳いだところで同人は泳ぎ渡ることを断念し引き返し始めた。

(3)  そこに、たまたま中学同級生の訴外谷口昭人、同塩田純基、同須藤兵衛と一緒に遊びに来ていた亡高野昭男(当時一四才)が、水泳に自信があつたため、被告美谷があきらめて引き返すのをひやかして、自分なら泳いでロープを渡せるとの態度を、被告浜本、同内田らに示したので、同被告らは、それなら渡してくれるかと高野昭男に頼み、同人はこれに応じて直径約1.5センチメートルのロープの端を胴のまわりにまき、被告美谷が川岸に泳ぎ戻つてくるのと丁度いれ違いに川に飛び込み泳ぎ出した。

(4)  被告浜本、同内田は昭男が泳いでいくのに応じてロープをたぐり出していたが、昭男は川の半ばまで行つたところで、急に下流に流され出し、被告浜本、同内田それにその頃岸に上つた被告美谷も加わり、三名でロープを引いたりゆるめたりして昭男を助けようとしたが、ロープをあまり引くと昭男が水にもぐつてしまうので、次第にロープをたぐり出し、遂にはあきらめてロープを離したところ、昭男はそのまま流され、溺死した。

以上の事実が認められる(右事実中、昭男が溺死した事実は、原告らと被告洛南電気との間においては争いがなく、また昭男にロープを渡すのを依頼したとの点を除く事実は、原告らと被告浜本、同内田、同美谷との間においては争いない)もつとも、被告浜本、同内田は、その本人尋問において、昭男が勝手にロープを胴に巻きつけ制止する間もなく飛び込んでしまつたと供述し、また同人等の警察官に対する供述調書中にも同様の供述記載がある。しかし昭男と一緒にいた谷口昭人および塩田純基は、ともに工事人夫が昭男にロープを渡してくれるよう頼んだと証言しており、また同人らの警察官に対する供述調書にも同趣旨の供述記載がある。さらにもう一人の同行者須藤兵衛の警察官に対する供述調書にも、「昭男がもつてやろうかといつたのに応じて、人夫が何か大きな声でいつておりました」との供述記載があり、これらの証拠に照らすと、前記被告浜本、同内田の各供述および供述記載は、にわかに信用しがたく、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

三(被告らの責任)

(一)  被告浜本、同内田、同美谷の責任

1  まず、被告浜本、同内田の責任につき按ずるに、前記認定のとおり、当時大堰川は前日の雨で増水し、本件事故現場付近は急流となり、体力の劣る高野昭男が直径約1.5センチメートルのロープを引きながら、泳いで対岸に渡ることは極めて危険な状態であり、大人で泳ぎの得意な被告美谷ですら途中で泳いで渡ることをあきらめたほどなのであるから、たとえ右昭男が泳いでロープを渡してやるからと言つたとしても、同被告らにおいてはいまだ一四才にすぎない同人が、右のような状態の大堰川を泳いで渡ることの危険を察知し、同人を制止してこれを断念させ、その生命の安全を計るべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠り、昭男にロープを渡すよう依頼し、同人がロープを身体にまきつけとびこむのを放任したものであり、右両名には本件事故につき過失があること明らかである。

2  つぎに被告美谷の責任につき按ずるに、前記認定のごとく同人が川岸に戻つてくるのと丁度いれ違いに昭男は川に飛び込んだのであるから、昭男が川に飛び込んだ経緯については同被告は無関係であつて、その責任はなく、また、その後の措置についても、過失があるとは認められず、結局、本件事故について同被告には責任がない。

(二)  被告洛南電気の責任

1  <証拠>によれば、被告国鉄と被告洛南電気との本件工事の請負契約には、請負人(洛南電気)は、現場代理人及び主任技術者を選び国鉄に通知すること、現場代理人は工事現場に常駐し、工事現場の取締及び工事に関する一切の事項を処理すること、主任技術者は工事現場における工事施行の技術上の管理をつかさどること、現場代理人と主任技術者は国鉄の承諾を得れば兼ねることができることが定められていたこと、そして被告洛南電気は右約定に従い被告国鉄の承諾を得て同社の被用者である訴外大橋勝を現場代理人兼主任技術者として選任し、現場に派遣していたこと、大橋は工事現場の責任者として、被告洛南電気の下請け業者である訴外北田電業社が仕様書どおり作業をしているか監督していたこと、北田電業社の被用者に対する作業方法の指示等は同社々長北田孝が行つていたほか、右大橋が直接北田電業社の被用者たる作業員に指示することもあつたこと、以上の事実が認められる。

<証拠>中、右認定に反する部分は、措信せず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

2  ところで、下請負人の被用者が第三者に損害を与えた場合に元請負人が責任を負うためには、元請負人が、下請負人に対し、工事上の指図をし、もしくはその監督のもとに工事を施行させ、その関係が使用者と被用者との関係またはこれと同視しうる場合であつて、しかも元請負人の指揮監督関係が直接間接に該被用者に及んでいる場合であることが必要である。

3  そこで、これを本件についてみるに、前記認定のとおり、元請負人である被告洛南電気は、その被用者大橋を派遣して下請負人である北田電業社ならびにその作業員に対し工事上の指図をし、その監督のもとに工事を施工させており、その関係は使用者と被用者との関係またはこれと同視しうる場合であり、また北田電業社の被用者である被告浜本および同内田の本件不法行為は同人らが移線作業という下請工事である電柱建替工事の施工行為に従事している際に、それを契機として生じたものであるから、同人らに対し被告洛南電気の直接的又は間接的な指揮監督権が及んでいたものと解される。従つて、被告洛南電気は、被告浜本、同内田の本件不法行為につき直接民法第七一五条の責任を負うべきである。

(三)  被告国鉄の責任

1  たしかに、<証拠>によると、被告国鉄は同洛南電気との請負契約において、「洛南電気は、国鉄又はその指定する職員(以下監督員という)の指示にしたがつて……工事を完成の上、工事の目的物を国鉄に引き渡すものとする。図面及び示方書に明記されていない事項があるときは、国鉄と洛南電気が協議して定める。但し、軽微なものについては、洛南電気は国鉄又はその監督員の指示に従い、洛南電気の負担において施行するものとする。国鉄又はその監督員は、災害防止その他工事の施行上緊急の必要があるときは、洛南電気に対し臨機の措置をとることを要求することができる。」旨約定したこと、実際の工事施行にあたつては、その工事期間中連日被告国鉄、同洛南電気の工事関係人が会合して翌日の工事の進行、工程について打ち合わせをしていたこと、本件事故の前日にも、その関係人が集り、工事の打ち合わせをしさらに当日朝にも前夜の打ち合わせを相互に確認していることが認められる。しかしながら、さらに前記証拠によると、被告国鉄が右監督員を派遣する目的は、工事が線路近くで行われることから、列車運行の安全を図るためのほか、請負人の工事が工程表どおり進んでいるか、またそのできばえを確認するためであり、被告洛南電気との打ち合わせも右目的をこえるものではなく、現に本件事故前日の打ち合わせも、その内容は予定された移線工事にともなう停電の作業は被告国鉄がすることになつていたため、その時間を連絡してその間に工事を終了させるように求めたことのほか、列車運行に支障がないように求めたにすぎなく、作業方法などの打ち合わせは全くしなかつた(この認定に反する証人大橋勝の証言部分は採用しない。)ことが窺われるのであり、また前記認定のとおり、本件工事の責任者としてはその契約による主任技術者兼現場代理人として被告洛南電気の被用者大橋勝がその現場に常駐して工事施工の技術上の管理をつかさどるほか、その取締及び工事に関する一切の事項を処理していたことを考えあわせると、前記事情があるからといつて直ちに被告国鉄と同洛南電気との関係を民法七一五条にいう使用者、被用者ないしこれと同視しうるものとみることはできなく、前記証拠によると、なお被告洛南電気が独自の判断と責任において本件工事を施行したものというべきである。この点に関する原告らの主張は採用できない。

2  また既に述べたとおり、本件事故の前日の会合では、被告国鉄は同洛南電気と当日における作業の方法等についてなんら指示ないし打ち合わせをしていなかつたのであり、他に本件移線作業の方法について被告国鉄から具体的な指図があつたことを窺わせるに足る証拠はない。よつて、本件事故は民法七一六条により注文者である国鉄の指図につき過失があつたために生じたとの原告の主張は採用できない。

四(損害)

(一)  得べかりし利益

1  <証拠>によれば、原告らが亡高野昭男の両親であること、本件事故当時昭男は満一四才一ケ月の男子で学校の成績も中以上であつたことが認められ(右の事実中、原告らが昭男の両親であることは、原告らと被告洛南電気との間において争いない。)、厚生省作成の生命表によると、一四才の男子の平均余命が54.05年であること、労働省労働統計調査部編昭和四一年賃金センサス第一巻第二表によると、中学校卒業者の全産業労働者の月当りの平均賃金が、二〇才から二四才まで金二九、二〇〇円、二五才から二九才まで金三五、六〇〇円、三〇才から三四才まで金三九、七〇〇円、三五才から三九才まで金四三、三〇〇円、四〇才から四九才まで金四六、七〇〇円、五〇才から五九才まで金四五、三〇〇円であることは、当裁判所に顕著であるから、昭男は本件事故にあわなかつたとすれば、少くとも満二〇才から満六〇才に達するまでの四〇年間何らかの職業に就いてその年令の推移に応じ、右の平均賃金を下らない収入をあげることができたものと推知される。右の収入を上げるのに要する生活費等の必要経費は、経験例によれば、全期間を通じて収入の五割をこえないと認められる。

そこで昭男の右得べかりし利益を複式(年毎)ホフマン式計算方法により民法所定の年五分の割合による中間利息を控除して、本件事故時現在の一時払い金額(以下現価という)に換算すると、以下のとおり、金四、五二一、四〇〇円となる。

(計算式)

但( )内はいずれもホフマン系数

2  なお原告らは中間利息の控除方法として単式ホフマン法によつて計算して得べかりし利益の現価を三、〇一六、〇〇〇円と主張しているが、中間利息の控除方法としては複式(年毎)ホフマン式の方が合理的であるから、当裁判所は右計算式に基いて現価を算出した。

従つて昭男は本件事故により得べかりし利益金四、五二一、四〇〇円を失う損害を被つたものといわなければならない。

(二)  過失相殺

1  被告浜本、同内田らに本件事故発生につき責任があることは前記のとおりであるが、一方亡高野昭男も同被告らに対し自分なら泳いで対岸までロープを渡せるとの態度を示したため、同被告らも同人に泳ぐことを依頼するにいたつたものであり、前記認定にかかる当時の大堰川の増水と急流の状況からすると、右昭男においても身体に巻きつけたロープを引きながら、約三〇メートル先の対岸まで泳ぎきることは非常に困難であり、危険であることは容易に認識しえたものと解されるのに、自己の泳術と体力に対する過信から本件行為にいたつたものであり本件事故発生につき昭男にも一端の責任があるものというべきである。そして、これらの事実に右昭男の年令をあわせて考えると、その責任の割合は、被告浜本、同内田において六、右昭男において四と認めるのが相当である。

2  ところで前記のとおり昭男にも過失があるので、過失相殺をしなければならないが、被告浜本、同内田らと昭男との過失割合は前記のとおり六対四であるから、右割合に応じて金四、五二一、四〇〇円につき過失相殺をすると、昭男の損害賠償請求権の価額は金二、七一二、八四〇円となる。

(三)  相続

原告らが昭男の両親であることは前認定のとおりであるから、原告らは昭男の死亡により各二分の一の法定相続分に応じて、それぞれ一、三五六、四二〇円ずつ右損害賠償請求権を相続したことになる。

(四)  原告らの慰謝料

愛児を失つた原告らの精神的苦痛は計りしれないものがあり、前記の昭男の過失を考慮にいれても、その苦痛を慰謝すべき額は、原告ら各自につき金五〇万円と認めるのが相当である。

五(結論)

以上の事実によれば被告浜本および同内田は、不法行為を原因として、また被告洛南電気は右両名の行為に対する使用者責任を原因として、いずれも原告等それぞれに対し各自損害賠償として金一、八五六、四二〇円およびこれに対する事故の翌日である昭和三九年七月二一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よつて、原告の請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項但書、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。なお、仮執行免脱の宣言を求める申立は相当でないからこれを付さない。

(山田常雄 伊藤博 房村精一)

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